- 何故日本のボクシングは37歳定年制度が設けられているのか?
- スポーツ科学の進歩に伴い競技年齢も伸びているので延長しても良いのでは?
この問いについて今回は考えていきたいと思います。
高齢化に伴いサラリーマンの定年も60歳から65歳まで延長。
スポーツ選手でも40過ぎても活躍する選手が増えています。
一方、日本のプロボクサーはチャンピオンやランカーの例外を除き、37歳になったタイミングでライセンスが失効し引退となります。
昔と比べれば安全面は大幅に改善されているし、中にはパフォーマンスが落ちていない選手もたくさんいます。
高齢化に伴いサラリーマンの定年が延長されたように、ボクサーの定年も延長して良いのではないか?
という意見も多々あります。
賛成派、反対派、それぞれの立場で意見があるとは思いますが、
ボクサーの定年を延長することのメリットとデメリット
を挙げ、
- 延長しない場合に懸念される問題
- 延長する場合に必要な対策
の2つを紹介させていただきます。
プロボクサーの定年を延長する事のメリット
プロボクサーの定年をメリットをまずは具体例も挙げながら順番に紹介していきます。
まだまだ活躍出来る選手が競技を継続できる(加藤寿選手の例)
定年間近のノーランカーでもまだまだ活躍出来る選手はたくさんいます。
例えば2022年6月、奇跡のKO勝利で日本ランカーとなり定年延長の権利を得た、
熊谷コサカジムの加藤寿選手
定年半年前のアキレス腱断裂を乗り越え、定年を迎える誕生日前日の試合での人生大逆転KO劇でした。
結果的に加藤選手は定年延長を勝ち取りましたが、様々な協力もありつつ、たまたま定年前日にランカーと試合が出来た、正に滑り込みセーフな状況でした。
ボタンを一つでも掛け違えていたらひっそりと定年引退していた事でしょう。
定年が伸びていればこうした状況から救われるまだまだ衰えていない選手もたくさん出てくると思います。
遅くにプロになる選手もプロボクサーをやり切る事ができる(ガチコ萩生田選手の例)
JBC発足以来定年年齢は37歳で変わっていません。
が、実はプロテストの受験資格は以下の順に引き上げられています。
- 2007年に29歳から32歳に引き上げ
- 2016年には更に34歳までに引き上げ
この措置によって30過ぎてからプロボクサーになる選手が増えた一方で、
- 折角プロになったけれどやり切る事が出来ずに定年を迎えてしまう
というケースもあります。
例えばプロテスト受験の年齢制限ギリギリでプロボクサーとなったガチコ萩生田選手。
ガチコ選手は生き方も独特で、
- 高校大学と慶應を出た後でニート
- 声優として生きようとしていたところがコロナ禍で無職
- そこからプロボクサー
という異色の経歴の持ち主です。
ガチコ選手のデビュー戦は2対0の判定で黒星。
2戦目は定年となる37歳の誕生日を迎える前月に試合してのドロー。
2戦目はBOXING RAISEで観戦しましたが、体力的にはまだまだ現役でやれそうに見えました。
このまま37歳で定年引退と思われたところ、本人の熱意と関係者の尽力により誕生日前日となる8月14日にアダムス・ハナコ選手との再戦が組まれました。
試合は一進一退ながら手数に加え有効打が増えたガチコ選手が若干上回ったかに見えましたが、判定はアダムス ハナコ選手を支持。
この瞬間をとらえたボクシングモバイルの写真が全てを物語っているのでここに引用させていただきます。

試合の度に成長していたのでもっとこの先が見たい選手でした。
ガチコ選手のラストファイトはボクシング専門チャンネルが新設されたABEMAで、ABEMAプレミアムに加入していれば視聴可能です。
>>アダムス ハナコ vs ガチコ萩生田(REAL SPIRITS VOL.81)
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定年が近いことを理由に復帰を見送っていたボクサーが復帰する可能性(高山勝成選手の例)
元世界チャンピオンの高山勝成選手はアマチュアでオリンピック挑戦をした後に、定年間際にプロボクサーに復帰する予定でした。
ところが定年前に行われる予定だった試合がコロナ禍の影響で延期に。
そこでJBCに嘆願書を提出し、例外的に次戦まで定年延長が認められる措置が取られました。
そしてその試合で世界ランカーだった小西選手を破り見事定年延長の正式な権利を得て、なんとその後に世界タイトル挑戦まで実現させました。
高山選手のケースのように一時引退していた選手が復帰するケースを考えた時に、37歳定年が壁となって立ち塞がる事があります。
37歳定年が緩和されれば、最後にもう一花咲かせようとリングに戻ってくる選手も出てくるでしょう。
定年延長により競技人口が増え、試合枯れの問題を緩和できる
プロボクサーは過去15年で急激な勢いで減少しました。
>>プロボクサー数調査 過去15年の日本人選手の減少数に驚愕!!
減少の理由は競技としての人気が低下している点もありますが、人口減によって競技可能な人口が減っているという点も大きいです。
>>プロボクサー数の減少に占める人口減の影響から見た15年後の選手数予測
競技人口が減ると、選手の試合間隔も空いて定年までにこなせる試合数も減ってしまいます。
この悪循環を改善する一つの方法として、
データ上は定年をあと2年延長すれば、15年後も競技可能人口は今と同じ水準をキープ出来る
ので、先々のプロボクサー数減少を一定数はカバー出来ると考えられます。
プロボクサーの定年を延長する事のデメリット
では次にプロボクサーの定年を延長する事のデメリットを挙げていきます。
大事な大事な安全面の問題
定年を延長する上で何より大事なのは安全面。
37歳定年に明確な根拠がないとは言え、その条件を緩和する上では何かしらの安全面の対策を講じる事は欠かせません。
プロテスト受験の年齢を引き上げた際は、30歳以上の受験者は、頭部CTスキャナー検査に代わり、頭部MRI検査を受けることが義務付けられました。
そうした安全面での追加の措置は必要になるでしょう。
例えば37歳定年を40歳定年に引き上げた上で、37歳以上の選手に対しては毎年実技試験を課して安全面の審査をする等。
選手の決断の先送りを招き、セカンドキャリアに影響を与える
人間誰しも締切が迫らないと頑張れない側面はあると思います。
定年を延長する事で、選手の側に「37歳までに選手をやり切らないと!」という気持ちが薄れて決断を先延ばしにしてしまう恐れはあります。
毎年受験料を徴収し、追加の実技試験を課す等の対策を講じないと、ズルズルと先延ばしし、36歳までにやれた事を39歳になってやろうとする選手も出てくるかもしれません。
決断が遅れる事で、セカンドキャリアも先送りされ、選手の将来の可能性を狭めてしまうリスクもあります。
リミットがあるから生まれた感動がなくなる
メリットのところで事例として挙げた加藤選手、ガチコ選手、高山選手のケースは、いずれも37歳定年という壁があった事から感動を生みました。
- 加藤選手の試合の時には試合前めちゃくちゃドキドキし、ダウン取った時には思わず飛び上がりました。
- ガチコ選手の闘志溢れるファイトと試合後の涙にはこちらももらい泣きしました。
- 高山選手もメディアで大きく取り上げられたのは定年の壁があったから。
ズルズルと定年を伸ばしていくことで、感動が薄れてしまう可能性は否定出来ません。
パフォーマンスの落ちた選手をいつまでも見ていたくないという意見もある
個人的には気にしないポイントですが、「好きな選手が衰えてリングに上がる姿は見たくない」という声はかなり大きいと思います。
僕は選手の生き様を見たいタイプのボクシングファンなので、年を重ねた上で若手ボクサーに世代交代される場面や、若手の壁となって立ちはだかる姿に感動するのですが、「世界を目指していた選手が、もう上を目指せない状況でボクシングを続ける意味はない」という考えの方もいます。
選手の健康面や将来を考えて「もう引退して欲しい」と心配の声が挙がることもあるでしょう。
プロボクサーの定年を延長する上で必要な対策
プロボクサーの定年延長にはメリット・デメリットそれぞれある事を紹介しましたが、仮に定年を延長する場合にはいくつかの対策を講じる必要はあると考えています。
以下は私、torajiro的に考えた定年延長をする上での対応策です。
- 37歳定年は維持した上で、ランカーに適用している例外措置を毎年の実技試験に変える。
- 実技試験を毎年課す事で、安全面をチェックする。
- 実技試験はある程度の費用を徴収し、選手の側にも自覚を促す。
- 定年延長の申請は毎年とし、実技試験の他に、直近3試合で連敗している場合は認めないといった条件を課す。
安全面と先送りに対する懸念はやはり大きいので、定年を延長する上ではそこは何らかの方法で担保できるような仕組みが欲しいところです。
プロボクサーの定年を延長しない場合に懸念される点
プロボクサーの定年延長をしない場合に、ボクシング業界全体として考えた時の懸念点は何と言っても選手数の減少です。
特にキックボクシングやMMA等の比較され易い格闘技において40過ぎても活躍する選手がたくさん出てくるようになった場合、比較されて人材が他の格闘技に流出し、プロボクサーの減少に拍車をかけるかもしれません。
日本は毎年の出生数がどんどん減っており、この先も競技可能な世代は驚く程の勢いで減っていきます。
このままの流れで国内のプロボクサーが減っていった場合、国内で日本人同士で試合をする機会が大幅に減り、外国人ボクサーを日本に呼んで試合をするか、日本人ボクサーが海外に出て試合をするパターンがどんどん増えていく事になるでしょう。
日本ランキングが殆ど空位、もしくはA級ボクサー皆日本ランカーの時代は近いうちにやって来ます。
まとめ
以上、プロボクサーの定年延長のメリット・デメリットと、延長する場合の対策・延長しない場合の懸念事項を紹介しました。
最後になりますが、ランキングに入っている事で適用される定年延長者同士の熱いファイトが、2022年8月26日(金)武居選手のOPBFタイトル戦が行われる第91回フェニックスバトルの前座で繰り広げられました。

torajiroと同世代の岡田選手と高畑選手、2人合わせて83歳。
ベテラン同士の注目の一戦です。
プロレスの世界ではベテランレスラーになればなるほど放たれるオーラがあり、リング上での所作も無駄のなく美しかったりもします。
ボクサーも同様に2選手からはリングインの時から他の選手にはない独特のオーラを感じました。
両者による試合はダウン応酬の大激戦。
最後は岡田選手の大逆転KOで決着。
>>武居由樹タイトル挑戦にベテラン40代対決の行方は?第91回フェニックスバトル観戦記
高畑選手はこの試合に敗れランキング落ちしたため引退。
>>2022年度に定年を迎えるプロボクサー達のラストファイト
両選手ともにランカー特例で定年延長を続けていた選手。
この2選手の試合は技術レベルも非常に高く、熟成された味わい深い試合になりました。
安全面の問題はありつつも、こうした試合を1戦でも多く見届けたいなと個人的には願っています。